2012年8月9日木曜日

社会保障と税一体改革に挑む厚労省香取照幸さん

NPOピュア藤田敦子、大学院生モードです。

◎介護保険の鉄人から社会保障の鉄人へ
「介護保険の鉄人」の称号を持つ香取照幸厚労省政策統括官(画像左)は、日本の社会保障を語る時になくてはならない人だ。ゆきさん(大熊由紀子教授:画像右)の『物語 介護保険』に最多登場するということは、要所要所で、必ず改革を成し遂げていることに他ならない。最近購入した荻島國男遺稿集『病中閑話』にも香取さんは寄稿している。今回、社会保障と税の一体改革のトップバーターからお話を伺くことで、より一層、改革の必要性を感じ、ジャーナリスト分野で学ぶ学生として講義の内容を私なりにまとめてみた(平成24年7月5日現在)。


◎社会保障と税の一体改革をめぐる問題
社会保障は、高度経済成長期である1960年~70年代に骨格が完成し、会社による正規雇用・終身雇用・完全雇用に守られ、皆保険・皆年金を達成した。給付の増加は、経済の成長により問題にはならなかったが、現在は、雇用環境が変化し、非正規が全雇用の34%(2010年)になっている。また、2015年には団塊の世代が65歳に達し、今後、医療や介護を必要とする後期高齢者の著しい増加、特に一人暮らしの問題が社会問題となっていく。支える側の弱体は大きく、合計特殊出生率は1.39(2010年)になっており、産み育てることのできる社会の構築が急務となっている。また、社会保障の給付が年金に偏っているため、世代間の不公平が起きている。そして歳出・歳入の変化も著しく、一般歳出の半分以上を社会保障が占め、その費用を賄うため、公債金(借金)が歳入の半分近くになっている。現在の状況は、太平洋戦争末期と同水準にあり、市場の介入などで経済の津波が起こると、私たちの暮らしが一瞬にして変わる危機的状態とも言える。

この問題を解決する為、一体改革は行われる。目指す将来像は、「社会保障の充実・安定化」と「財政の健全化」であり、この問題は一歩も後に回してはいけない問題でもある。 今回の改革で変わることは多義に渡る。年金は国庫負担2分の1の恒久化が大きい。幼保一体化の総合こども園の創設はならなかったが、内閣府が一元的に認定こども園制度等の改善を図り、子ども・子育て支援の強化を図る。また、在宅医療の充実、地域包括ケアシステムの構築、高額な医療費負担の軽減など、医療と介護の充実を図る。そして、年金制度の改善、就労促進や貧困・格差対策の強化、医療イノベーションを行うなど、様々な改革が行われる。

消費税を上げることにより消費が落ち込みことが心配されているが、社会保障と経済とは相互作用があり、雇用の創出や労働力保全機能が生まれ、経済の活性化につながることが期待されている。低所得者への配慮として、社会保障・税番号制度の導入を図っていく。簡素な給付措置は、消費税が8%となる時期から実施する(以上は7月5日現在の状況であり、今後、国会などで審議される中で内容が変わっていく可能性もある)。

◎理念を共有し、伝えていくことの大切さ
香取さんは、スウェーデンの中学校の教科書を例にとり、自助と共生、自立と連帯、助け合い、相互扶助、官と民、公と私について、日本の教科書は教えていない実態を伝えていた。また、「人間としての感性、共感できる心がなければ、いくら現場を歩いても、現場の人に接しても、現場の気持ちも喜びも苦しみも感じることはできない」「専門家がいなければ、現場の事象に振り回される」と、制度には理念があり、現場には実践があり、その二つは相互に支え合う関係だと述べていた。制度を作る側と実践する現場、そしてそれを国民にわかりやすく目指すべき方向である「理念」や「真実」を伝えていく役割がジャーナリストなのだと思う。

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講演資料1(PDF) 大熊由紀子教授HP ゆき・えにしネットより
当日追加資料「一体改革の現場で思うこと」(PDF)同上

9月21日追加資料
講演議事録をゆき・えにしネットの上段2列目「医療福祉の財源の部屋」で見れます!
★ 「社会保障政策転換の発信源として」(上)
社会保障・税一体改革の基本的考え方/2.社会保障改革のポイント
★ 「社会保障政策転換の発信源として」(下)
3.一体改革の現場で思うこと/4.閣僚による「全国行脚」/院生・聴講生との意見交換
内閣府官房社会保障改革室 内閣審議官(当時) 香取照幸さんの大学院講義録

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講義の後、昨年、デンマークへ行き感じたことを思った。デンマークでは、スウェーデンと同じく、「教育」をとても重視し、「自立」や「考える力」を養っていた。「貧困対策」に力を注ぎ、親の貧困が子に及ぶことがないように社会保障を充実させていた。在宅ケアと住宅政策が充実し、障害を持っても、病気をしても、自分らしく生きることが保障されていた。日本はとても豊かな国なのに、幸福感が少ない。

平成23年総務省統計局「家計調査」によると、二人以上の世帯の貯蓄現在高は、平均1664万円で、67.9%の世帯が平均を下回っている。全体の約1割である4000万以上の世帯が貯蓄全体の41.5%を占めている。また貯蓄は、金融機関が多く、生命保険なども含まれる。他国に比べて、持ち家が多く、住宅ローンなどの負債が減ったことにより、資産が高く感じるが、本当に自由に使える資金が高いかは不明だと感じた。国債の国内投資家だけが保有している現状が、もし崩れれば、銀行の倒産など、日本経済だけでなく国民の暮らしも危うくなってくる。

現在でも、持てる者と持たざる者との二極化が進み、在宅ケアの現場でも、お金がなく、介護保険で必要なサービスを利用できない人も出ている。がん患者の高額な治療費や病気を持つ人の雇用の問題も、命と直轄し、大きな問題となっている。また、今後の少子化を考えると住宅の売却は進まず、要介護で住むことが難しくなると、「住居」がなくなる人の増加が考えられる。低所得者に対しての住宅政策を今後進めていく必要を感じている。

大人になり自立できるまでの間、そして病気や障害を持ちながら生きること、高齢となりケアを必要としたり生活が困窮すること、誰もが起こりえることであり、そのために社会保障は存在している。そして互助の精神は、寄付や助け合いの文化も育む。日本人として生まれ、温かな人の輪の中で暮らし、最期の時に「いい人生だった」と思い亡くなっていける、そんな国にしていきたい。 自分ができることは小さいけれど、これからも「理念」を発信続けていこうと改めて思った。

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